2011年度より小学校5,6年性を対象に週一コマ40分の外国語活動が必修化された。2019年から3年生から英語は必修教科として指導させることになっているが、問題は授業時数をどれだけ確保できるかである。現在の小学校における英語の授業時数は近隣諸国のいずれの国、地域のそれと比べても少ない。他の教科との兼ね合いもあるから、英語の授業だけ増やすということは物理的にも難しい。また、誰が教えるのか、文字は教えなくてもいいのか、中学校の英語の授業の前倒しになるのか、中学校との連携はどうするのかといった問題がある。また、2022年度から高校での英語の入試にコミュニケーションが取り入れられることになった。入試で口頭試験を実施するということになると、誰が担当するのか、どういった方法で判定するのか、、それに当てる時間はどのくらい割くのかなどの問題が当然考えられる。
2006年3月の中央教育審議会答申の初等中等教育文科会教育課程部会外国語専門部会が文科省に提出した「小学校における英語教育について」では、小学校における英語教育と国語教育の育成との関係について以下のように報告されている。これまでの研究開発学校の取組や諸外国での聞き取り調査などにおいて、週1~2時間程度の英語教育を行うことで、国語力に支障が生じたということは把握されていない。文科省が実施したスクールミーテイングでは、最近の子供たちの一般的な状況としてコミュニケーションが取れなくなったという指摘があるが、研究開発校の取組においては、英語を学ぶことにより、国語などの英語以外の教科でも積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲や、日本語できちんと話したり注意深く聞こうとする態度が養われたり、日本語と言う言語に対する意識が高まったりするなどの良い点があったとの指摘がある。
Benesseが調査した統計のよると「東アジア高校英語教育」によると、小学校で英語学習の経験のある生徒53.7%の生徒が中学生時の英語学習は好きであったと答えているのに対して、小学校で英語学習の経験のない生徒は中学生時の英語学習が好きであったと答えている生徒は37.5%であったと報告している。また、小学校で英語学習を経験した生徒の方が、経験のない生徒に比べて、英語を学習することに有意義を感じている割合が高く、英語学習に対して高い目的意識を持っている割合が高い。「小学校での英語学習経験と現在の英語学習に対する意識」調査のアンケートで85.3%の生徒が、「英語の授業で学んでいることは役に立つと思う」と答えている。さらに、小学校で英語学習を経験した生徒の半数以上が、「英語」に関心がある( 63.9% )や「外国文化」への興味・関心がある( 58.3%)と、「外国人とコミュニケーションを行おうとする態度」( 55.9% )といったコミュニケーションへの積極的態度に効果があると感じている。こういった調査から、小学校からの英語教育にはそれゆえ意義がある。
我が国の英語教育の現状を観察してみると、実際の授業はまだに文法訳読中心の授業から脱却できていないのが実情のようである。その根底には以下のような理由があるようだ。1)日本語での授業が慣例化していたために教師も慣れない英語で授業を行うには抵抗がある。2)英語だけで行う授業に対する効果がまだ客観的に実証されているとは言い切れない。3)文科省の調査で示しているように教師のコミュニケーション能力に不十分なところがあるために、すべて英語で授業を行うには困難がある。4)英語で授業を行った場合、多くの生徒が授業の内容を理解できないおそれがある。5)クラス規模、授業時間数、教室以外で使う場がないので、学習環境が整わない限りコミュニケーションを目的にした授業は難しい。6)英語教師の中には英文学が専門であったためにコミュニケーションを中心とした指導法に不慣れであるなどの理由が根底にあるようだ。
以上のようなことから、高校入試でコミュニケーション能力を課することは結構なことだが、その前に小学校、中学校での英語教育にもっと教師とのコミュニケーションを重視した授業が求められる。